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尾道市三軒家町9−17 (ひやま時計店向かいの石段を33段アガル)

大正末期から昭和初期にかけて戦前の豊かな時代に、他の港町と同様尾道でもハイカラな洋風建築が流行りました。鉄道開通後栄え始めていた尾道駅裏の斜面地には擬洋風建築の建物が今も多く残されており、旧和泉家別邸もそのひとつで、わずか10坪の狭い建物の中に当時流行った技法がところ狭しとちりばめられた洋館付き住宅となっています。
昭和8年に和泉家の別邸として一人の大工さんが3年かけて建てた建物ですが、跡継ぎ不足と老朽化で25年間空き家の状態で解体の危機にありました。2007年より尾道の斜面地における空き家再生のシンボルとして、プロセスを共有しながら再生しています。再生完了後は和の空間を生かした貸しスペースや短期滞在可能な貸家として活用し、尾道建築の生きた証しとして後世に繋げていきたいと考えています。


*通称ガウディハウスという名前は、以前よりそう呼ばれており、随所に見られる必要以上の装飾や日本建築にしては珍しい曲線の多様から来ていると考えられます。また現在ではスペインのザグラダファミリア教会のように「いつ完成するか分からない」という意味合いも含めての愛称となっています。




建築的所見:一級建築士 渡邉 義孝
この住宅は、尾道市で箱物製作・販売を手がけていた和泉茂三郎氏が、 1933年(昭和8年)に離れ・別宅として建設したもの(棟札を確認)であり、その後1980年頃まで親族関係者の方の住まいとして利用され、 のち25年以上空家状態となっていたものである。
建物は木造2階建て(一部地下室あり)で和館部と洋館部からなる。北西側に三角形に広がる和館部は桟瓦葺き、寄棟造りで、西側に庇を付け、北側の玄関上には数段に重なる飾り屋根を持つ。間取りは1階が玄関・取次の他に六畳、家事室(二畳半大)、台所(三畳大)、廊下と大小便所からなり、2階は八畳座敷、二畳、廊下および外部に露台がある。両階ともに西側に張り出しの窓台を備える。外壁は厚18ミリほどの杉板による南京下見板張りを基本とし深い陰影を持つ黒いマッシブな外観をつくりあげている。また、鋭角に尖ったコーナーや少しずつ角度を変えて回る庇など極めて複雑な躯体および屋根形状が目を引く。南側に矩形に伸びる洋館部はパラペット付きの陸屋根で、南と西に庇を廻す。東の石垣に寄り添うように架構され崖側の壁は傾いてつくられている。2階の洋室は漆喰塗りで仕上げられ、執務室として使用されていた。外壁は着色したセメントを叩きつけたドイツ壁で、擬洋風建築らしい上げ下げ窓が採用されている。和館部分の状態は比較的良いが、石垣に密接し陸屋根でもあった洋館部は雨水の浸入による腐朽・破損が進んでいる。
意匠上の特徴は第一に地形に合わせた複雑な形状と南京下見板張りの力強い外観である。明治から昭和初期にかけて普及した和洋折衷住宅の系譜としてドイツ壁と上げ下げ窓の擬洋風のデザインと、和風住宅の伝統を併置させる、当時の建築思潮を体現した貴重な建築といえる。第二に、良質な木材と手の込んだ造作に満ちていることである。二階の八畳座敷の北側には床脇とつながる本床の床間があり、磨き丸太の床柱と狆潜り、筆返しと海老束を持つ違い棚が格式の高さを象徴している。特に目を引くのは三角形かつ片側が湾曲した階段で、13段の段板はすべて形が異なり、アール形状の壁にはその曲面そのままの収納扉まで付いている。住人の記憶によれば「階段だけで2年をかけた(建築工事は3年)」という、特異な作品である。他にも張り出し窓台の勾欄親柱の面取りや、平書院の変り組みの組子障子、欄間の彫刻や組子障子、丸窓などに丁寧な細工を見ることが出来る。第三に、土間台所につくられたタイル張り竃(かまど)や防空壕を兼ねた地下室など昭和初期の生活スタイルを今に伝えているということである。これは、この家が浴室も本格的な台所もない別邸であり、日用の利便性を優先されることもなく、水回りリフォームなどの経験を経ていないという事情によるものである。
また、当建物には建設時の「建材買求帳」が現存し、四国の山林購入や大阪のタイルの仕入れ記録等も残っている。建築生産システムのデータとしても貴重なものといえよう。
総じて旧和泉家別宅は、近代和風建築がその技術の最高潮を迎えていた昭和初期の造形の規範となる遺構であるとともに、その立地と眺望において坂の町尾道を代表する歴史的景観のひとつとなっている。そして随所に、現代の建築技術をもってしては再現が不可能、あるいは困難な意匠を持つ貴重な和洋折衷建築というべきである。

建物のみどころ
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屋根:正面玄関の上に幾重にも重なる飾り屋根や飾りの「うだつ」が設けてあります。こういう必要以上の装飾がこの家がガウディハウスと呼ばれる所以なのでしょう。玄関までの狭い空間に不必要だろう門の跡があります。扉が無くなっているため、鳥居のように見えます。
外壁:黒くなった南京下見板張りの外壁が特徴的で、鎧戸や2階からの出口も同じ仕上げになっています。洋館の部分は当時流行ったドイツ壁の技法が使われています。
・・・

再生プロセス

2007年5月:旧和泉家別邸内部見学
代表の豊田が通称ガウディハウスの内部を初めて見学しました。25年間空き家だったのでほこりだらけで、部屋によっては激しく朽ち果てていましたが、これは尾道の地域遺産だと直感し再生を決意、2ヶ月後に市民団体「尾道空き家再生プロジェクト」を結成すきっかけとなりました。

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2007年5~6月:再生第一段階ボランティア作業
朽ち果ててもう使えないものとまだ使えるものを入念に選別し、不要品やゴミなどを石段の下に運びおろし、クリーンセンターへ運ぶ作業を学生さんや主婦仲間も含めボランティアの力で何度も行いました。片付けと掃除をひたすら繰り返し、やっと土足厳禁にこぎ着けました。

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2007年6月:応急処置と図面作成
屋根や床下部分など職人さんに応急処置をしてもらいました。一級建築士の渡邉義孝さんに手描きの図面を仕上げてもらい、職人さんと改修計画を立て始めてもらいました。

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*通称尾道ガウディハウスのチャリティグッズとして手描き図面のポストカード販売中


2007年7月7日:「通称ガウディハウス オープンハウス」
修復の必要な箇所はのぞいて、その他の状態のいい部屋を復元し、ご近所や関係者など大勢の方にお披露目させてもらいました。もとの大家さんにも来ていただき、この家が使われていた頃のお話や三軒家界隈の昔話などを聞かせてもらいました。

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2007年7月14~16日:第1回「空き家再生★現地でチャリティ蚤の市」開催
空き家に残された不要品をリユース・リサイクルしてもらおうという蚤の市を現地で3日間開催しました。不要品を坂の下まで運び下ろす労力を省き、工事前のビフォアーの状態を見てもらい、なおかつ投げ銭形式でいただいた募金は修復資金の足しにするという一石
三鳥の試み。古本や着物類、食器や古道具にいたるまで、戦前からのものもたくさんありました。タイムスリップしたような古い民家の内部を見学してもらえる良い機会にもなりました。

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2007年8月~9月:「AIR Onomichi 2007」への提供 
同時期にスタートしたアートイベント「AIR Onomichi」の制作及び展示会場として丸ごと提供しました。通称ガウディハウスを一般の方にも広くお披露目するこけら落とし的イベントとなり、1000人以上の方に訪れてもらうことができました。
作品は尾道出身の山本基さんによる「塩の迷宮」で、本床のある広い和室や壊れかけた洋室などもうまく活かした幻の名作となっています。

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2007年10月~:「空き家再生チャリティイベント」開催スタート
それぞれの空き家の再生資金を捻出するため、現場の空き家でその建物の雰囲気にあったささやかなチャリティイベントを開催しています。
通称ガウディハウスでは毎月そこにあった古道具などを使って様々なイベントを開催しました。

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2007年11月~:「尾道空き家談議」開催スタート
8畳の和室で「尾道空き家談議」という座談会を毎月開催し始めました。毎月地主さんや空き家の所有者さん、地元不動産屋さん、空き家に住む若者など関係あるゲストを迎えてお話を聞いたり、空き家の再生計画を練ったりする機会として利用しました。

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 *ガウディハウスの修復工事中は別の場所や別の再生事例物件で行なっています


2007年11月~2008年2月:第一期工事
雨漏りとシロアリでボロボロになった1階奥の物置部屋の床の解体工事やシロアリの駆除と予防、階段下の基礎部分や柱の根継ぎ作業などを行ないました。工事で出たゴミの搬出作業などはボランティアのみなさんに手伝ってもらいました。

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2008年5月~:「尾道建築塾 たてもの探訪編〜山手の洋風住宅とガウディハウス」で紹介
古い民家や尾道独特の景観の魅力を再発見してもらおうと専門家とのまち歩きのイベントをスタートし、一級建築士の渡邉義孝さんのコースで内部見学をしました。このイベントはこの後毎年開催されています。内部見学をしたい方は、この機会にどうぞ。

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2008年12月:水道工事
25年空き家だったのでメーターもなく、止水栓から家までの間で壊れてでない状態でしたが、外観に邪魔にならない方法で、古いままの蛇口も使い水道の復旧工事をしてもらいました。長い間のタンク搬入の苦労もやっとなくなりました。


2009年8月~9月:「AIR Onomichi 2009」への提供          
隔年に一回開催しているAIR Onomichiさんへ今年も制作及び展示会場として提供しました。今回は2階の8畳の和室のふすま絵「街男」を「0円ハウス」で有名な坂口恭平さんが制作・発表しました。

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2010年8月~2011年3月:第2期工事
冠婚葬祭互助協会さんの助成により洋館部分の本格的工事に着手しました。雨漏りがひどく、構造までかなり痛んでいた2階洋室の陸屋根を解体し、工事中の仮屋根を設置し、柱や梁などの主要な構造部分から職人さんを中心に入念に修復しています。洋室の漆喰仕上げの内装は特にすばらしい技術で、完全復元をめざし、蛇腹仕上げの漆喰の型を取り、左助左官店さんが材料や技法を研究してくれています。

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2016年12月~2017年3月:担い手育成のためのワークショップ開催
文化庁の助成により、外壁工事の一部を職人さんに教わりながら改修するワークショップを開催しました。

2017年4月~2017年10月:第3期工事
現在、職人さんによる本格改修が進んでいます。空き家だった時に崩れ落ちてしまっていた路地沿いの壁を復原し、一部雨漏りしていた屋根工事や洋館部分の内装工事を日々行っています。

2017年11月4日~12月3日:尾道芸術祭「十字路〜ONOMICHI ART CROSS ROADS」にて建物公開
尾道の坂の町で共に歩んできたAIR Onomichiと百島のART BASEと共に回遊型の芸術祭が行われます。通称ガウディハウスは完全に完成までは至っていないと思いますが、和室2階で旅する建築家・渡邉 義孝さんの「記録と記憶 ~渡邉義孝・旅のフィールドノート展
〜55ヶ国、30冊の旅日記が語るもの〜」、1階で「通称ガウディハウス 10年間の再生の軌跡」を週末限定で行う予定にしています。ぜひこの機会に生まれ変わろうとしている空間をご見学ください。タイミングが合えば、洋館部分の左官仕上げ作業をしているかもしれません。
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・ 工事中



2020年2月22日〜24日:通称ガウディハウス完成お披露目会
2007年に代表の豊田 雅子か個人的に衝動買いをした通称ガウディハウスが、2020年、干支がひとまわりしてやっと再生完了しました!建物の細部や備品に至るまで、尾道の職人さんや作家さんと、とことんこだわって進めてきたために、予定よりかなり時間がかかってしまいました…一時はこのまま未完成のままなのではないかと心配しましたが、おかげさまでこの度なんとかついに完成しました〜
チーム空き家再生PJの最高傑作の作品になっています。作家・もうひとりと建築士・渡邉 義孝の作品公開と尾道在住の8人の作家によるオリジナル備品も展示公開する予定です。
10坪ほどの小さな空間ですが、建築当初の昭和8年から平成、令和…と時代の流れを経て、今の尾道がぎっしり詰まった逸品をお楽しみください。

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現在、一棟貸しの宿泊やレンタルスペースとしての一般活用を始めさせていただいています。
ご利用のご案内は尾道ガウディハウス公式ホームページからお願いします!


©2008 尾道空き家再生プロジェクト